一緒に見たい景色があるから

こちらは『未来の言葉』デザイナーも務めていただいた辰巳ろんさんから寄稿いただいた文章になります。



こんにちは。デザイナーとして世瞬舎さんに協力しております「辰巳ろん」と申します。今日は、デザイナーの視点から世瞬舎さんのことをお話します。


私がnoteで、神谷京介さん作の小説『未来の言葉』を読んで、それを「本にさせてもらえませんか」とお声をかけたのは、一年半以上前になります。それからいろいろなことがあって、世瞬舎さんが設立され、『未来の言葉』も無事に書籍化されました。今や、『未来の言葉』の作者であり、世瞬舎さんの代表である神谷京介さんとは、ほぼ毎日オンライン上で言葉を交わすほどの付き合いになりました。


『未来の言葉』書籍化の作業中から変わらないのは、私がデザイナーとして具体的な本やその他のイメージを「提案」し、神谷代表はそれを持ち帰って検討して、軌道修正、それを私がまたデザインに反映して「提案」し直し、最終的に神谷代表が「決定」を下すという流れです。私はデザイナーとして「提案」し続けてきました。私にできるのは「提案」だけでした。しかし、神谷代表はそれを大事に扱って、時にバッサリとボツにし、時にその提案の意図に悩みながら、自分の中にあるイメージを引き上げていきました。私はその過程にずっと伴走し続けて、それは今進んでいる作業でも続いています。


私は、作りたいものの最もふさわしい形を知っているのは、クライアントさんの方だと思っています。ですから、私がやっている作業は、私の考えそのものを作り上げるというよりは、その形を見つけるのをお手伝いするといった方がふさわしいと思えます。他のデザイナーさんのやり方はよく知りません。ですが、私のやり方は、こうやってクライアントさんと一緒に悩み、一緒に作り上げていくスタイルです。ともすると、それは私が仕事をしていないように思えるのかもしれません。そして、責任をクライアントさんに押し付けているように思えるかもしれません。でも実際は、そうではなく、むしろ分かち合うものになっています。外面的には別に見えたとしても、作業した本人たちの心情としては、完全に共にあるのです。


それでも、クライアントさんには、そのふさわしい姿が見えていない場合も多々ありますので、様々なアプローチからの「提案」ができるように色々考え、クライアントさんの本当の希望や、デザインしているもののよりふさわしい形を模索しようとします。これはデザイナーとしての課題のひとつでもあり、難しいところでもあり、楽しいところでもあり、もし可能であれば、クライアントさんの想像よりもさらに良いアイデアを「提案」できるようにと、毎回挑戦し続けている目標でもあります。


世瞬舎さんの本づくりのスタンスは、「そこにある物語を可能な限り制約なくそのまま本の形に具現化すること」そしてそれを「届けて、広げること」と言ってもいいでしょう。それは私に強い印象を与えた『皿の上から望む夢』という神谷代表によるnote記事にもあった夢の景色です。このことは、上に書いた私のデザインスタンスにも通じています。そして、それはどんなに力を尽くしても、いつだって追いつかない夢の景色です。けれど、その景色は本当に美しくて、そして、それを共に追い求めていく作業は、苦しくとも楽しく、とても充実していて、そう、生きていると思える時間です。だからこそ、次々と追い求めてしまいたくなるのです。『未来の言葉』に続き、「『未来の言葉』制作記」、そして新作の書籍と、書籍や冊子のデザインをしてきていますが、このスタンスはずっと変わっていません。むしろ、純度が上がり、充実度も増しているように思います。


私は『未来の言葉』を作りながら、「世瞬舎」という出版社のあり方についても、多少なり「提案」をしてきました。「提案」というとちょっとおこがましいかもしれません。神谷さんの相談にのって意見を述べてきたという感じです。そうはいっても、私ができたのは話を聞くことだけだったですが、そうやって話をする中で、たくさんの勇気ある選択と決断をして「世瞬舎」という出版社の形を見つけてきたのは神谷代表の力です。その徐々に拓けていく景色を、その遥かな美しい景色を、一緒に見ることができたこと、それもまた素晴らしい出来事でした。私自身の問題によって、期待されているような働きができない場面がたくさんありましたが、それでも、その素晴らしい景色を一緒に見たいと思っていたからこそ、共に先へ進んでこれたところがあります。私は、できればまだまだこの夢を終わらせたくないと願っています。


世瞬舎さんは今、ここまでで培ってきた土台を蹴って、さらに発展しようとしている大事な時期を過ごしています。この発展のためには、もうたったひとり神谷代表だけの力では足りなくて、力及ばない私が伴走しても全くエネルギーが足りないことは前々からわかっていました。だから、クリエイティブですてきなマネージャー小川牧乃さんの参加が決まったときは、本当にありがたく嬉しかったのです。そして、もっと言えば、今後もまだまだ幾人もの協力者の力を頼りにしなければなりません。


そんな中、この『未来の言葉』にまつわる案件が終了したら、私は一旦世瞬舎さんとのお仕事を離れることにしました。もしかすると、この決断を不思議に思われるかもしれません。正直、私自身も未だ迷っているのです。でも、おそらく、私のいる席を開けることが、より多くの協力者とつながる扉になると思いました。世瞬舎さんの方にしても、この扉を活用する準備が整いつつあります。だから、どうか、もし、世瞬舎さんに何かしら期待をお持ちになっていただけたとしたら、世瞬舎さんの求めがあったときには、この扉を叩いて世瞬舎さんを盛り立ててもらえないでしょうか。


世瞬舎さんの本作りと、本をあいだにして人と人をつなげていく活動、神谷代表の目指す世界は、これからますます面白くなっていくはずです。一緒に楽しみましょう!



辰巳ろんさん、ありがとうございました。残りの時間も、よろしくお願いします!
世瞬舎ではデザイナーさんをはじめとして、諸々のご協力をお願いしたい場面にあります。お気持ちがあれば、ぜひ一度ご相談ください!


宛先:seishunsha@gmail.com もしくはTwitter DM @seishunsha_info

世瞬舎 Seishun-Sha

2020年に開設したちいさな出版社です。文芸書籍中心に制作、販売を行っています。名前の由来は「永遠と瞬間」。

0コメント

  • 1000 / 1000